クリープハイプのヴォーカル・尾崎世界観さんの「母影(おもかげ)」。
小学2年生の女の子が大好きな母親を隅々まで観察している様子と、その心の機微を繊細に描いた作品です。
直木賞候補になり、惜しくも受賞は逃しましたが、細胞という細胞が凄まじく揺さぶられる物語でした。
女の子の緊張感、不安を押し殺す息遣いが聞こえてくるような言葉選びとその文才に、嫉妬さえも覚えるほど。
子どものときに抱える独特な世界、誰にも言えなかった感情が否応なしに記憶の淵から引きずり出されていきます。
それで、すぐに「祐介」という処女作を読みました。
ああ、また順番間違えた…。「愛の不時着」より、「梨泰院クラス」を先に観れば良かったという後悔に似ています。4年の歳月を経て「母影」の方がグッとスキルが上がっていたからです。
この作品は尾崎祐介が尾崎世界観になるまでを描いており、ほぼノンフィクションのように感じますが、半自伝的小説と位置づけられているようです。
バンドだけでは食べて行かれず、スーパーで夜勤バイト生活していたころの荒んだ生活、生々しい鬱屈した感情を包み隠さず吐露している明快なストーリー。
尾崎世界観さんは尾崎祐介さんという本名で活動していたのですが、世間からの「世界観が良い」という評価に不満を持ち、名前にすれば言われなくなると考え、世界観と名乗るようになったといいます。
3月7日に放送されたドキュメンタリー番組「情熱大陸」の中で「小説を書くのは、やっぱり歌詞に注目してもらいたいから」という趣旨のことを話していました。
早速クリープハイプを聴いてみたのですが、私は小説派になりそうです。次回作も楽しみにしています!
(E)