蝉が大合唱する朝の公園で、今年は早めに出会ったトンボのギンヤンマ。
ギンヤンマを見かけると、息子が小学校2年生のときの出来事を毎年思い出します。
水泳が始まる季節にプールの大掃除をしてヤゴをレスキューし、牛乳パックに入れて成長を観察をする伝統的な理科の授業があります。
ちょうどそのころ授業参観があり、子どもたちの頭上をぶんぶん飛ぶトンボたちに驚かされました。
このところそんな光景が当たり前のようになっているらしく、至って普通に授業が進行しています。
(家に持ち帰る前に羽化してしまったという子も多数いたそうです)。
水を張った虫かごに入ったヤゴのさぶろうを持ち帰ってきた日のことは、不思議なほどに鮮やかな記憶として残っています。
さぶろうはすでに名前を付けられていて、その日からお世話をすることになりました。
私は間近でヤゴを見るのが初めて。体長は4センチくらいで、基本的に虫かごの中で静かにしていて動き回るようなことはありません。真っ黒な丸い目と牙が正直怖いです。
ちなみにヤゴとはトンボを表す「ヤンマの子」を略して「ヤゴ」と称されているそうです。
ヤゴは動いているものしか食べない、完全肉食の生き物とのことで釣具屋さんに人生初の入店、主食となる「生きている赤虫」を購入します。水を入れたペットボトルに赤虫を移して、屋外の日影に置いてみます。
割り箸で赤虫を挟み、恐る恐るさぶろうの口元に持っていくとカメレオンのような速さでパクっと食べます。こんなに小さいのに食欲旺盛で、野性味あふれるヤゴ・さぶろう。
廊下の椅子の上に置かれた虫かごに変化があったのは、さぶろうが我が家に来てから10日後くらいだったと思います。
朝、虫かごに入れたとまり木にしがみついている羽化の姿にを目を見張りました。
あれは、あれは……シン・さぶろう!!
徐々に色味が変化していくシン・さぶろうは、もはや牙を持った昆虫ではなく、刻一刻と美しいトンボへ変貌しています。
15時ごろ息子が学校から帰宅するころには、完全にトンボの形に。
息子の手の平に乗ったさぶろうは、羽をぶるぶるっと旋回させてから、ふわっと舞い上がりました。すぐに見えなくなるほど、空高く。
初めて生き物の成長を見守った息子は、振り返りもせずに行ってしまったさぶろうに泣き崩れました。
それ以来、ギンヤンマが庭に来ると「今年もさぶろうが来た!」と夏の風物詩に。
庭に来ない年でも、一中通りで見かけたり、プールで遊んでいるところを訪ねてきてくれたりと、毎年挨拶に来てくれるようになりました。
先日さぶろうのことに触れると「キレイな色だったな」と、息子がぽつりと言いました。
さぶろうのキレイな色と共に、思い出は色褪せないまま。
(E)