先日の日曜日、高等学校日本音楽部の神奈川県大会が開催されました。
年に一度の頂上決戦の日です。
エントリーは12校。
どの学校も9分間の演奏に全てをかけて臨みます。
私の指導する小田原東高校邦楽部は、今大会で優勝すれば三連覇です。
大会直前の11月に一年生が二人退部するというハプニングもあり、決して順風満帆ではありませんでした。
しかし、ハートの熱い部長(女子)の「全国大会の出場権利を貰うことが目的ではない。神奈川県一位の座を取りたい!三連覇を果たして卒業したい!」という言葉に、「何が何でも優勝させたい!」と私の気持ちも高まり、指導にも一層力が入りました。
演奏曲は三木稔作曲の「箏五重奏曲 三つのフェスタルバラード」です。
この曲は元々箏の為に書かれたものでは無く、作曲者・三木稔が東京芸術大学に在学中の1954年初夏に、ピアノ曲として作曲した作品です。
その後、著名な箏演奏家である野坂惠子先生が箏四重奏に編曲(1975年)、さらにその編曲を参考にしつつ原曲に立ち返り再編成された、宮越圭子先生の箏五重奏曲バージョンが2004年に出版されました。
三つの楽章からなり、第一楽章「市のおもいで」、第二楽章「夜の地車(だんじり)」、第三楽章「木偶(でく)まわし」というタイトルが付いており、三木稔が幼少期を過ごした徳島県での門前市や地車を曳き回す祭、阿波の木偶人形を操る大道芸人など、古き日本の活気ある風景が描かれた、大変魅力的な曲です。
大会本番の舞台上で、5人のパートリーダーを軸に、力強く、時に繊細に、多少のミスも気にならないほど良い流れで総員10名一丸となった演奏をしてくれました。
学校専属の楽器屋さんからは「客席で聴いていて鳥肌が立った」と言われました。
しかし、何もかも理想通りの展開だった訳ではありません。
本番に上がる直前に、私がある問題を引き起こしてしまったのです!
この曲は原曲がピアノ曲なので、箏四パートと十七絃それぞれの調絃が複雑な上に転調とハーモニクスもあって演奏前の準備が非常に厄介でした。
準備のために割り当てられた時間は45分。
初めの5分で生徒自身が各自で調絃を取り、本番前の通し練習10分、残りの30分で私が本番調絃をして行くという時間配分に決めました。
前夜、綿密に調絃表を書き、制限時間内にいかに効率よく、且つ正確に音をとって行くかを考えましたがどうにも名案が浮かばず・・。
これはもう正攻法で行くしか無いと決心して本番を迎えた訳ですが、そこでいまだかつて無い大ピンチが訪れます。
第四箏の調絃は一から四までが非常に低い半音階の設定で、普段から琴柱同士がくっついてしまう現象が起こりやすかったのですが、前日に柱並びの確認、調整をしたはずなのに当日の朝、やはり不具合に・・。
そこでいつも通りに微妙な力配分で絃を緩めてみたつもりが、必要以上に緩め過ぎてしまうという痛恨のミスを犯し、演奏不可能な状態にしてしまいました!
内心の動揺を生徒に見せないようにしつつ、別室に置いてある予備楽器で演奏させるか、会場内にいるであろう楽器屋さんを大至急探し出して絃を一本締め直して貰うか、必死に考えます!!
残り時間は容赦なく減って行く・・・最大のピンチです!!!
私は一先ず予備楽器を取りに走り、その間に若い顧問の先生がいち早く楽器屋さんを探し当て連れてきてくれたお陰でどうにか時間内に楽器を復旧させられました!!!!
昨夜の調絃シミュレーションなんて全く無意味。怒濤の勢いでとにかく10面調絃をして制限時間内に退室完了、事なきを得ました。
演奏直前の廊下で部長がみんなに一言「これまで優勝に拘って練習してきたけど、今日の本番はこのメンバーでとにかく楽しんで弾きたい。何位になってもいいから悔いのないように、楽しんで演奏しよう!」と。
「あれっ?そうなの?勝ちに行くんじゃなかったっけ?」と心の中で突っ込みを入れる私がいました(笑)
しかし、部長の明るい一言でみんなの肩の力が抜け、とても良い演奏が出来たのだと思います。
結果は第一位。三連覇達成です!
高校生たちの青春の1ページを飾ることが出来て本当に良かった!
私自身も緊張感を持って大会に臨み、ピンチを切り抜けて結果を残せたことは人生の大きな糧となりました。