寒川町出身、茅ケ崎北陵高校と湘南にゆかりが深い映画監督・三澤拓哉さんによる最新作「ある殺人、落葉のころに」が10月2日(金)より、イオンシネマ茅ヶ崎で限定上映される。
2014年に同氏が手掛けた「3泊4日、5時の鐘」はオール茅ヶ崎ロケで撮影された1作。長編第2作となる本作は同じく湘南地域の大磯をメインに展開するという。
▲三澤拓哉監督(※)
歴史の眠る町、大磯から着想を得た物語
「前作、『3泊4日~』の撮影は主に茅ヶ崎館で行ったのですが、その際、館主の森さんから『次は大磯なんてどう? 面白い土地だよ』とアドバイスをいただいて。実際自分の足で歩いてみたりしたところ、茅ヶ崎とはまた違う歴史の重み、厚みを感じました。丁度次回作について、前作は女性キャスト中心だったので今度は青年グループの話を、そして社会批評を内包するような一歩踏み込んだ作品をという構想があり、大磯の町が持つ雰囲気と合致したんです。そこからイマジネーションを膨らませて脚本を作り上げていきました」
本作のあらすじは、生まれ育った町・大磯で気ままな生活を送っていた4人の幼馴染の青年たちが、恩師の死をきっかけにこれまでの友情に綻びを生じさせ、関係性を変化させていくというもの。
「大磯の町は南側は海に面し、北を山に囲まれた様な形をしていて、静けさと、少し閉じたような雰囲気がありました。絵になるような急な坂道を見つけた時、ここを危険な色気のある若者を歩かせてみたいと思ったんです。
作品内では幼馴染4名を演じる役者さんたちの演技も手伝って画面にひりひりした空気感を作り出し、いつもと違う、町の表情がそこに映し出されていると思います」
最も不可思議な湘南映画 誕生
「最も不可思議(ミステリアス)な湘南映画」とのキャッチコピーの付いている本作。
タイトルにある「ある殺人」という文句から犯人捜しが話の軸となった作品とも受け取れるが、監督曰く単純に「事件があり、犯人を捜し、解決する」という作品にはなっておらず、“事件を探す”一風変わったミステリーなのだという。
「始めは、そもそも何が事件なのかすらよく分からないと思います。ある人物がいなくなったり、不可思議に思えることが起きたり、少しずつ出来事が重なっていく。見た人それぞれの解釈で『何が殺人だったのか?』を考えてもらえるような内容になっています。
これまで韓国、香港といった各国での映画祭での上映時にも、その点が結構賛否別れました。
すごく褒めてくださる方もいれば、『意味が分からない』という感想もいただいて…(笑)
慣れ親しんだ物語の形式からは少し外れているのかもしれないです。だからこそ、多くの方に見ていただいて、色々な解釈が聞いてみたいですね」
作品全体がたたえる“謎”の他に、亡くなった恩師の未亡人に惹かれていく俊(守屋光治)、俊にひそかな思いを寄せていたことに気が付く知樹(中崎敏)、家族のため不法投棄を請け負う和也(森優作)、親友によって恋人が身の危険にさらされてしまう英太(永嶋柊吾)のメイン4名とその周囲を彩る人物たちまで、注目の若手俳優たちによるパフォーマンスも見どころの1つ。
「細かい仕草や、言葉にはしないながらも滲み出る感情にまで注目していただくと、より楽しんでいただけるのではないかと思います。
昨年9月の釜山国際映画祭で、司会の方から『この映画はいつ爆発するかわからない地表のようだ』という感想をいただき、自分の中でも『ああ、そういう映画だったんだ』と腑に落ちる感覚がありました。人が表向きにつくろっている表情や態度からは見えないけれど、薄皮一枚下にはせめぎ合っている感情がある。物事も実は見た目通りには進んでいないのかもしれません。
今回の登場人物4人は幼馴染ですが、長年の閉じた、深い仲だからこそ人間関係の両面がある。寒川で生まれ育ち、つい最近まで住んでいた私自身そうした感覚があって、『この感覚って何なんだろう…』と深く掘り下げてみたのが、本作の空気感なんです」
国際色豊かな”ご当地映画”
ある種の“ご当地映画”的な側面を持ちながらも、プロデューサーには2015年より監督と交流のある香港の映画人・ウォン・フェイパン氏を迎え、撮影にも香港のスタッフが参加。現場には英語が飛び交うなど国際色豊かな体制で制作が進められた。
「フェイパンとは同世代で、映画の話で刺激を与えあえるというのがタッグを組んだ一番の理由です。実際動き出してみると、英語が使えないキャストやスタッフもいたのですが、言葉が通じないなりに取り組んでいくことで、各々が積極的になれたのは嬉しい副産物でした。
何より、香港のスタッフも含め、関わった皆が大磯を好きになってくれたのが思い出深いです。撮影後も何度か集まったりもしたんですよ!」
三澤監督も大磯を個人的に気に入っており「湘南の中でも落ち着いた雰囲気が魅力。いつかは住みたいと思っているくらい」と、撮影を通じて肌で感じた魅力を語ってくれた。
「ただ、所謂ご当地映画ではそうした町の魅力をストレートに表現することが多いと思うのですが、本作はミステリアスでダークな物語になるので、地元の方がご覧になると面食らうかもしれないな、と心配もしているんです(笑)
大磯の他にも藤沢、寒川、茅ヶ崎、真鶴でも撮影しており、湘南地域の皆様にとって見慣れた風景が各所に登場するかと思います。いつも見ている風景がカメラ撮影し、画面越しに見るとまた違った風景に見えてくると思うので、違いを楽しんでいただけたらいいかなと思います」
表現できることの自由さに惹かれ、映画の道へ
茅ヶ崎の高校に通っていた時代に映画を好きになり、学生時代は大学の映像図書館で1日を過ごすこともあったという三澤監督。
「当時ウディ・アレンやデビット・リンチの作品に出会い、両者は全然違うタイプの監督ですが、それまで自分が見てきた映画とはまったく異なる語り口や映像表現に『映画でこんなことができるんだ』と凄く自由なものを感じました。
この時の感動が自分も作り手を目指そうという思いに繋がっていて、今でも、自分が注視したいのは物語の枠からこぼれ落ちる、余分ともいえる部分なんです」
映画とは「究極には、人間がいない世界」と、監督。
「カメラという機械の目で捉えることで、そこだけが切り取られた世界になる。カメラの無意識性に撮影している人の意識が加わって、単純に人の目で見るのとはまったく違う世界が立ち上がってくることが、映画ならではの魅力だと思います」
10月2日(金)イオンシネマ茅ヶ崎で公開。クラウドファンディングで全国へ
「ある殺人、落葉のころに」は、第24回釜山国際映画祭への正式出品をはじめとする6つの映画祭で上映され、今年3月には「第15回大阪アジアン映画祭 インディ・フォーラム部門 JAPAN CUTS AWARD」を受賞。
これまで海外から”異国の地”として鑑賞されてきた作品が、ついに地元での凱旋上映となった。
10月2日より開始のイオンシネマ茅ヶ崎での限定公開後に、全国での公開を目指すクラウドファンディングも実施中。
リターンには過去作の「3泊4日5時の鐘」の期間限定配信や「ある殺人~」のオーディオコメンタリーなどの映画作品関連のものをはじめ、茅ヶ崎や藤沢の飲食店での特典や茅ヶ崎館宿泊券、大磯の蒲鉾店の詰め合わせセットなど、地元色豊かなユニークなものも。
「制作から宣伝まで、ずっと少人数でやってきた作品です。『小さい映画を小さいまま終わらせず、全国に届けたい』という思いを私だけでなくスタッフやキャストの皆も抱いてくれていて、クラウドファンディングを通じて話題を広げていければとプロジェクトを開始しました。リターンには湘南地域のお店さんにもご協力いただいて、作品もですが、湘南についても遠方の方にまで知っていただければいいなという気持ちもあります」
最後に、記事をご覧になる方々に向けてのメッセージをいただいた。
「まず、皆さんお気軽に見て欲しいです! 難しく思われるようなところから、誰しもが共感できるようなところまで、色々なものが詰まった作品です。この映画をどう見たのか、存分に語っていただけたらと思います」
9月、10月には茅ヶ崎市図書館で三澤監督によるトークイベントも開催。
芸術の秋を、映画の深みにどっぷり浸って過ごしてみては。
※文中画像は(※)を除き三澤監督提供
「ある殺人、落葉のころに」
The Murders Of Oiso
【作品情報】
・監督:三澤拓哉
・製作:ウォン・フェイパン
・撮影:ティムリウ・リウ
・出演:守屋光治、中崎敏、森優作、永嶋柊吾
2019年|日本・香港・韓国|79分
・twitter:https://twitter.com/OisoFilm
・Instagram:https://www.instagram.com/oisofilm/
・Facebook:https://www.facebook.com/OisoFilm/
・クラウドファンディングHP:https://motion-gallery.net/projects/oisofilm
【上映スケジュール】
公開日:2020年10月2日(金)~
場所:「イオンシネマ茅ケ崎」(茅ヶ崎駅北口徒歩10分、イオンスタイル湘南茅ヶ崎内)
詳しい日時は下記HPよりご確認ください
HP:https://www.aeoncinema.com/cinema/chigasaki/
【関連イベント】
現役映画監督が映画の一部を上映してその魅力を解説する
「茅ヶ崎市立図書館所蔵映画を見て語ろう!!」
・監督編「小津映画、見たことありますか?」~茅ヶ崎にゆかりの深い小津安二郎作品の入り口~
日時:2020年9月21日(祝・月)、14時~15時20分(開場13時半)
場所:茅ヶ崎市立図書館会議室
定員:35名(先着順)
料金:入場無料
講師:三澤拓哉氏(映画監督)
問合せ:oiso.film@gmail.com(三澤監督)
⇒詳細はコチラ
・ジャンル編「いま、フィルム・ノワールが熱い」~ジャンルで楽しむ映画観賞~
日時:2020年10月10日(土)、14時~15時20分(開場13時半)
場所:茅ヶ崎市立図書館会議室
定員:35名(先着順)
料金:入場無料
講師:三澤拓哉氏(映画監督)
問合せ:oiso.film@gmail.com(三澤監督)
⇒詳細はコチラ